- 2026.10.19
- 導入事例 中津市様
「水が出る」当たり前を次世代へ。有収率93%の中津市が宇宙水道局でつなぐ現場の経験

大分県の北西部、福岡県との県境に位置する中津市。中津城を中心とする市街地には、今も城下町の面影が残り、歴史と自然が暮らしの身近に息づいています。
このまちの日常を支える水道管路は、総延長約605km。市内を流れる山国川の河川水や地下水が、水道の水源として市民の暮らしを支えています。中津市上下水道部は、長年の漏水調査や管路更新によって、令和3年以降の5年間は93%台の有収率を維持してきました。一方で、その安定した水道を未来へつなぐには、老朽管の維持管理や更新箇所の判断、そして現場を知る職員の経験を次の世代へ引き継ぐことが欠かせません。
こうした課題に向き合うなかで取り入れたのが、天地人が提供している水道DXソリューション「宇宙水道局」でした。直営の修繕班から水道事業に関わり、入庁38年目を迎えた石丸さんに、導入の背景から現在の活用、これからの水道事業への思いを聞きました。
深夜の修繕から積み重ねた経験。高い有収率の先にある課題

昭和63年に技術職として入庁した石丸さんが最初に担当したのは、水道の修繕班でした。当時は漏水が起きれば自分たちで現場へ向かい、自らの手で修理する。最初の3年間は、そうして管路と向き合う日々だったといいます。その後も、浄水場の運転管理、給配水設備の整備、簡易水道事業など、さまざまな立場から水道を支えてきました。
若いころには、深夜から早朝にかけて破損した管の修繕に出向くことも珍しくありませんでした。現在、修繕業務は業者に委託していますが、当時の経験は今も活きています。
「管の材質や状況から、修理の方法をある程度想定できます。漏水が起きたことを伝えるだけでなく、これくらいなら何人でどのくらいの時間で対応できる、と作業の見通しを伝えられる」
業者とのこうしたやり取りにも、現場での経験が役立っています。
中津市の高い有収率も、一朝一夕に実現したものではありません。石丸さんは、職員たちが築いてきた取り組みの積み重ねだと説明します。一方で、従来の調査や管路更新により漏水率が低くなれば、漏水対策だけで大きな数値改善を得ることは難しくなります。
「小さい漏水が多いはずなので、予防保全に向けての体制を考えています。老朽管対策は、取り組んでいかなければならない課題です」
安定供給には、管路以外の課題もあります。令和3年の初頭、中津市は大寒波に見舞われ、管路の凍結による漏水が多数発生。浄水場の供給能力に余裕がないなかで制限給水を経験しました。渇水への備えも欠かせません。日々の漏水対応に加え、耐震化や施設更新を進めながら、将来にわたって水を届けられる状態を守っています。
「宇宙から水道がわかる?」新しい技術を、時間をかけて確かめる
中津市では以前から、市内をブロックに分けた音聴調査を実施してきました。その取り組みを続けるなかで、石丸さんは令和3年ごろ、新しい技術を探し始めます。
きっかけのひとつが、愛知県豊田市の事例です。記事を見つけ、担当者へ直接連絡して話を聞きました。衛星データを水道の分野に活用できることは、当初、簡単に想像できるものではありませんでした。それでも、その仕組みを知るにつれ、広い範囲を一度に診断できる点に可能性を感じるようになりました。
導入に向けては、現状の課題、期待される効果、概算予算を資料にまとめ、部内で説明しました。大切にしたのは、新しい技術を短期間で判断しないことです。
「従来は、市内を4ブロックに分けて、4年かけて音聴調査をしていました。新しい技術を取り入れても、1年ではなかなか見えにくいと判断し、4年間の時間をくださいと、最初からお願いしました」
令和5年度から、複数のデジタル技術を取り入れ、管路の劣化診断や漏水探査に取り組んできました。令和7年度に導入した宇宙水道局も、その流れのなかにあります。ひとつの技術だけでなく、さまざまな視点を知り、維持管理に役立てたいという考えからでした。
市全体でDXを推進する方針があったことも、新たな取り組みの後押しになりました。従来の調査や現場の判断を土台に、新しい技術を試しながら使い方を探っていく。それが、中津市の水道DXの進め方です。
現場の実感に、データの裏づけを。管路更新に生かすリスク診断

宇宙水道局に求めたのは、給水管も含めた小さな漏水への対策も見据え、音聴調査や更新の優先順位を検討するための判断材料を得ることでした。
石丸さんが評価する点のひとつが、漏水リスクを"100m四方のエリア"と"管路単位"の両方で見られることです。中津市では、年間の目標を定めて老朽管の更新を進めており、診断結果をその判断に活用しています。ただし、すべての業務が診断結果に基づいているわけではありません。令和7年度の音聴調査範囲は、従来どおり委託職員の判断で設定しました。
一方、管路更新の計画にはリスク診断の結果を使うなど、業務に応じて活用しています。令和8年度には、市独自の契約に加え、大分県の共同発注の枠組みでも宇宙水道局を契約しました。市独自の契約では維持管理に、共同発注による契約では管路更新の検討に活用しています。
また、診断結果は、現場で感じていた傾向を確かめる材料にもなっています。たとえば、VP管(硬質ポリ塩化ビニル管)に漏水が多いという経験上の実感が、診断結果でも同様の傾向が見られることがありました。
「衛星データやAIによる診断の結果と自分たちの経験や勘が一致して、やっぱりそうやったんだと感じています」
経験とデータは、どちらか一方を選ぶものではありません。長年の仕事で得た知見に、宇宙水道局の漏水リスク診断という別の視点を重ねることで、更新の判断を説明しやすくなります。
石丸さんは、これまでの漏水対策や管路更新、新しい技術の活用が重なり、有収率の維持や無効水量の減少につながっていると捉えています。宇宙水道局も、その積み重ねを支える技術の一つとして位置づけられています。
「修繕したら終わり」から、次の世代に残せる仕組みへ
デジタル技術の導入は、日々の記録に対する意識にも変化をもたらしました。
「以前は、漏水を見つけて修繕したらそれで終わりでした。宇宙水道局を導入する際に漏水履歴が必要だと聞いて、記録するようになりました。考えてみれば、こうした記録も更新計画には大事なデータやな、と。今後は、漏水箇所だけでなく、管本体の破損なのか、継ぎ手や接続部からの漏水なのかといった情報も残していきたいと考えています」。より詳しい記録があれば、診断に使う情報や、その後の判断にも役立つのではないか、と期待を寄せます。
一方、記録を充実させることは簡単ではありません。修繕を依頼し、完了を確認し、精算する。日々の対応のなかで、細かなデータ整理まで手を回す難しさがあります。
その課題を感じながらも、石丸さんは、履歴と診断結果を蓄積していくことが、中津市の事業の進め方の土台になると考えています。経験豊富な職員が退職した後も、次の世代が判断を続けられる仕組みを残すためです。
部内で理解を共有する取り組みも、石丸さんらが自主的に進めています。
「総務経営課など、普段は技術業務との関わりが薄い職員も交えて勉強会を開き、天地人の説明資料を活用しました。複数の診断結果を見比べ、どの路線から更新するかを考えるワークショップも行っています」。
参加者からは、知らなかったことを知る機会になったという声もあったといいます。結果を受け取るだけでなく、一緒に見て考える場をつくることが、経験や知識を共有するきっかけになっています。
もちろん、宇宙水道局だけで現場の修繕技術まで代替できるわけではありません。必要な部材や作業方法を見立てる力、業者との連携も引き続き重要です。そうした現場の力を大切にしながら、データを判断材料として残していく。その両方を、石丸さんは見据えています。
市民が水道を意識しなくていい。その日常を守り続ける

将来、どのような水道事業であってほしいか。石丸さんが挙げたのは、特別な姿ではありませんでした。
「蛇口をひねれば水が出る。その当たり前を守っていくことです。いつまでも同じ状態が続くことが、目指すべきところやなと思います」
令和8年熊本地震の影響により、市内の一部で水源に濁りが出た際にも、配水池へ水を運び、復旧を進めながら住民が水を使える状態を確保しました。さらに石丸さんは、自分たちにできることはないかと考え、備蓄用のペットボトル水などの支援物資を携えて、自ら八代市へ向かいました。中津市での日常の維持管理も、被災地への支援も、水を必要とする人の暮らしを支えるという思いでつながっています。
市民に仕事の苦労を知ってほしいかと尋ねると、石丸さんは、むしろ何も考えずに使えるくらいがいいと話します。
「知ってもらうまでもないんですよ、自然に維持できたらいい。水道について考えることなんてないくらいがいいんです」
現場で培ってきた経験に、診断結果と履歴の蓄積を重ねる。職員同士で学び、次の世代が判断できる材料を残す。中津市にとって宇宙水道局の活用は、市民が水道を意識しなくても暮らせる日常を、これからも支えていくための取り組みです。

