導入事例

  • 2026.06.18
    • 業界動向

予防保全か、事後保全か。30年で90兆円差、来年度予算の選択

日本の水道管路は、総延長約74.8万km(地球約18.5周分)。このうち、設置から法定耐用年数の40年を経過した経年管は、すでに約18.9万km(地球約4.7周分/全国の約25.3%)に達しています。

年間2万件以上の漏水事故が発生し、全ての管路を更新するには1kmあたり約2億円、合計で約34兆円規模の費用が必要と試算されています。

あわせて2024年4月、改正された水道法施行規則(第17条の2)が施行され、従来のコンクリート構造物に加え、新たに水管橋等についてもおおむね5年に1回以上の点検が義務化されました。同時期に水道行政が厚生労働省から国土交通省(および環境省)へ移管されたことも重なり、全国の水道事業者には点検手法や更新計画の見直し、体制の再構築が強く求められる時期に入っています。

本記事では、水道事業の課長クラスの皆様に向け、来年度予算の意思決定に使える「予防保全と事後保全の30年コスト比較」を、内閣府・国土交通省の公的試算をもとに整理します。財務部局への説明資料として、そのままご活用いただける数字を集めました。

水道管の老朽化と、30年で約90兆円のコスト差。予防保全 vs 事後保全

すでに全国の約25.3%が経年管となっている水道管路ですが、老朽化の進行はこれから一気に加速します。国土交通省の資料[*1]によれば、建設後50年以上経過する水道管路の割合は、2023年時点で約9%。これが2030年には約21%、2040年には約41%に達する見込みです。

施設 2023年 2030年 2040年
道路橋 約37% 約54% 約75%
トンネル 約25% 約35% 約52%
水道管路 約9% 約21% 約41%
下水道管渠 約7% 約16% 約34%

道路橋やトンネルはすでに老朽化が高水準ですが、水道管路は今まさに老朽化が一気に進む局面にあります。今年度・来年度の判断が、その後30年の維持管理コストを大きく左右します。

では、事後保全のまま放置した場合と、予防保全に切り替えた場合とで、30年間でどれほどコストが変わるのか。国土交通省は、社会資本(道路・河川・下水道・港湾等)全体の維持管理・更新費を、2つのシナリオで試算しています[*2]。

区分 30年間トータル 単年(2018年度) 単年(2048年度)
事後保全 約280兆円 5.2兆円 12.3兆円(2.4倍増)
予防保全 約190兆円 5.2兆円 6.5兆円(1.3倍増)
約90兆円 5.8兆円/年(5割縮減)

事後保全のままだと、30年間で約90兆円の追加コストが積み上がります。これは2013年に決定された「インフラ長寿命化基本計画」以降、国の方針として確定している試算です。

水道分野(厚生労働省所管)に絞ると、効率化効果はさらに高くなります。30年平均(2018〜2047年度)で、事後保全が約2.0兆円に対し、予防保全は約1.3兆円。▲33%の削減効果です[*3]。これは公立小中学校(▲23%)、医療施設(▲27%)と比較しても最大級の削減効果がある分野で、水道は予防保全への切り替えが特に効きます。

自治体の現実。技術職員5人以下が約5割、土木費は1990年代の6割

現場で予防保全への切り替えが進むかというと、深刻な制約があります。

国土交通省の調査[*4]によると、

  • 市区町村の土木部門職員数は、2005年の105,187人から2024年の91,198人へと約13%減少しています(市区町村全体は約7%減)。
  • 技術系職員5人以下の市区町村が約5割。うち0人の自治体は25%にのぼります。
  • 1990年代のピーク時と比較して、市町村の土木費は約6割まで落ち込んでいます[*5]。

道路橋を例にすると、地方公共団体には修繕等が必要な橋が約4万橋あり、これまでの予算水準では予防保全への移行に約20年かかると試算されています[*6]。

「人がいない」「予算が足りない」「対策が間に合わない」。この三重苦の中で、限られたリソースをどこに集中させるかが、課長クラスの皆様の判断の核心になります。

予防保全への切り替えを支える、国の方針と衛星データ×AIの選択肢

2024年4月1日、水道法施行規則第17条の2が施行され、コンクリート構造物に加え水管橋等はおおむね5年に1回以上の点検が義務化されました[*7]。さらに、2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故を受け、国土交通省は下水道管路を対象とした全国特別重点調査も開始しています。

あわせて水道行政は厚生労働省から国土交通省へ移管され、2026年4月7日には「上下水道DX技術カタログ」改訂版が公表されています[*8]。

その中で国土交通省が公式に示しているのが、衛星データとAIによる予防保全という新しい選択肢です[*9]。

  • 設置年・材質に基づく管路更新(事後保全)→ ライフサイクルコスト増大
  • 破損確率予測に基づく管路更新(予防保全)→ ライフサイクルコスト低減

実際に効果を上げている自治体も出てきました。静岡県磐田市では、JAXA認定の宇宙ベンチャー 株式会社天地人が提供する水道DXソリューション「宇宙水道局」を導入。調査区域の40%で漏水を発見し、導入前と比較して6倍の発見率を達成しています(草地博昭市長が地方自治体インフラAXサミット2026で報告)[*10]。

福島市では通水100周年を契機に、令和5年度から3カ年計画で導入。不明水量を約58万㎥から約10万㎥にまで削減する成果が出ています。宮崎県都城市では、管路総延長約1,900kmから474箇所をリスク診断で優先抽出し、調査効率の改善に至りました。人口10万〜20万人規模の自治体では、調査コストを79%削減した実例も報告されています[*11]。

「宇宙水道局」の累計契約自治体数は60を突破(※2026年4月現在。契約更新含む)。第7回インフラメンテナンス大賞では厚生労働大臣賞を受賞しています[*12]。国の方針に沿った具体的な選択肢として、今、全国の自治体で運用が広がっています。

来年度予算の根拠。予防保全のデータは、すでに揃っている

ここまで本記事で見てきた数字は、すべて内閣府・国土交通省・厚生労働省の公的試算と、国の公式技術カタログに基づくものです。来年度予算の意思決定に向けて、要点を整理します。

  • 30年で約90兆円の差(国土交通省試算)
  • 上水道単独で▲33%の削減効果(厚生労働省試算)
  • 5年に1回以上の点検義務化(2024年4月施行)
  • 衛星×AIによる予防保全は、国土交通省「上下水道DX技術カタログ」に掲載済み

財務部局から「来年度でもよいのでは」と問われたとき、これらの数字はそのまま稟議書の根拠として転載できます。問われているのは「今動くかどうか」ではなく、「今動かないことのコスト」をいかに数字で示すか。財務部局を動かすための土俵は、内閣府と国土交通省の公的試算によって、すでに用意されています。限られた予算と人員を、最も効果の高い場所に集中させる。その判断材料として、本記事が来年度予算の検討にお役立ていただければ幸いです。

出典

[*1] 国土交通省「インフラの老朽化対策について」第43回 国と地方のシステムWG 資料1-2(令和7年4月11日)スライド5「建設後50年以上経過する社会資本の割合」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20250411/shiryou1-2.pdf

[*2] 同上 スライド7「インフラメンテナンスの基本的な考え方」

[*3] 内閣府 経済財政諮問会議「インフラ維持管理・更新見通しの公表」参考資料2(2022年4月19日)スライド1(厚生労働省所管・水道施設)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20220419/pdf/sankoushiryou2.pdf

[*4] 国土交通省「インフラの老朽化対策について」スライド10「市町村における技術職員不足」

[*5] 国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課 祢津知広企画官 講演(2025年7月17日 自治体総合フェア「特別企画セミナー」)

[*6] 国土交通省「インフラの老朽化対策について」スライド8「予防保全への移行(道路橋の例)」

[*7] 国土交通省 水管理・国土保全局「水道行政の最新動向について」(令和6年度水道技術管理者研修)スライド4「維持修繕基準の創設」
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply/content/001878067.pdf

[*8] 国土交通省「上下水道DX技術カタログ」改訂版(2026年4月7日公表)
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply_sewerage/jyouge_dx/index.html

[*9] 国土交通省 水管理・国土保全局「水道行政の最新動向について」スライド10「上下水道DXの推進」

[*10]「【開催報告】ベテランの経験と勘をAIで継承可能な資産へ。267名が参加した『地方自治体インフラAXサミット 2026』レポート」(天地人note 2026年2月26日)
https://note.com/tenchijincompass/n/nc2564fd0c7e8

[*11]「「天地人コンパス 宇宙水道局」の導入自治体における事例を発表。人口10万人〜20万人規模の自治体で、漏水発見効率6倍、調査費用79%削減」(プレスリリース 2025年4月16日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000178.000045963.html

[*12]「JAXAベンチャー天地人、第7回インフラメンテナンス大賞の「厚生労働大臣賞」を受賞」(プレスリリース 2024年1月17日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000095.000045963.html

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